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インドネシア通信

 :: 『熱病』…の巻 ::     神谷 典明

インドネシアは熱の出る病気が多いです。
有名なのはマラリヤですが、それ以外にも
数多い熱(を出す)病があります。
 
そうな病気に見舞われました。
ジャンビへ入って二日目。
工場で体がブルッとしたのです。
これは来るな!と思いました。
長い間マラリヤで苦しめられた経験を
持つ身には熱が出始める前に何となく
判るのです。
 
工場を早退させて貰いホテルへ帰って
エアコンを切った部屋でひたすら寝ました。
下着を重ね着してバッファリンを飲んで。
毛布を頭から被って寝ているとジワーと
汗が出てきます。
ベッドが汗でベトベトになるぐらい出てきます。
そうしたら一旦シャワーを浴びてもう一度
下着を重ね着し、バッファリンを飲んで
寝るのです。
 
医者の診察は要りません。
熱の原因を知る必要もありません。
自分の体が不調を訴えている間は
汗を出すためにベッドのくるまって
寝るのです。
 
食事もしません。
水を飲むだけです。
ただひたすら耐えて寝るだけです。
本当に眠れればこれも良いでしょうが,
眠ってはいません。
瞼を閉じてハアハア言いながら耐えて
いるのです。
やがて汗がドバッと出て体が爽快感を
示すまで。
 
いつからこんな原始的治療を始めたので
しょうか?
答えはタラカン島でマラリアや急性肝炎に
やられてから。
まともな医者がいるとは思えないボルネオで
病院なんぞに入院しようものなら死体で退院と
なりかねない。
薬もなく、あるのはドゥクンと云われる黒魔術師。
『お前には呪いが掛けられているから熱が出るのだ。
 呪いを取り除く魔法は・・・、』
やってられません。
島民は病院より彼等にかかります。
安いから。
祈って貰っている間に手遅れになって死にます。
だから絶食発汗治療となる次第です。
信じるのは自分の体力と運だけ。
まさか本格的病気ではないだろう・・・。
体力さへあれば体外の病気は自然治癒力で治せるのだ。
この信念の元に毛布にくるまって汗にまみれる。
実に簡単明瞭、勇気凛々、あとはどうとなれ療法です。
 
大概は治ります。
マラリアも治りました。
(治ると云うより3日後に大発汗のあと嘘のように
 体が清々しくなるのです。
 本当はマラリア菌が血中から肝臓に入っただけ
 で治ったわけではありませんが、熱が下がって
 普通の生活に戻れるのです。)
 
熱が下がるまでひたすら汗を流す。
出ない汗はバッファリンで強制発汗させる。
汗と一緒に体力も出てしまいます。
熱と一緒に筋肉も燃えてしまいます。
柔道で鍛えた自慢の胸や腕もべチャンコです。
でも・・・・
最後の大発汗を迎えた後で浴びるジャワーは
格別です。
体が軽くなり、、べたべたとまとわりついていた
汗が流されて清々しい気分を満喫しながら、
体の奥から力の蘇がえって来るのが判ります。
まさに生き返った気持ちです。
ちょうど暑い海上筏で汗だくになって原木検品
した後、ジョッキの廻りに汗の如く水滴がしたたる
冷たいビールを一気に飲み干す感じです。
 
こうして26年やってきました。
二つのベッドに残る沢山の皺は苦しみの跡です。
病み上がってみたら5kg痩せておりました。
病み上がってみたら5kg痩せておりました。