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インドネシア通信

 :: 『商業伐採が森林を荒廃させたという話の裏』…の巻 ::     神谷 典明

小職はインドネシアにおいてこの目で見たままの姿を、皆様にお伝えいたします。

たとえその姿が一部であり、全体を現わしていなくとも、
それが目撃されたという事実は消えません。
その事実を通してインドネシアで起こっていることの、
一端でも感じ取って戴ければ幸いです。

『商業伐採が森林を荒廃させたという話の裏』

小職は昔1979年から数年現地ロッギング会社へ出向して原木伐採もやりましたので、
自分の目で確認しております。
商業伐採とは、儲かる木だけを伐りだす択抜です。
その量は100m四方で2-3本です。5本もあれば素晴らしい林区と言われます。
しかし、そこに生えている木は数十本にも及びます。
数十本から2-3本を伐るだけですので、森林は荒廃しません。
さらには、国から伐ってもよいエリアを、年度ごとに指定され、
木が多いからと言って、同じエリアを伐り続けることさへも出来ないような
システムになっておりました。
原木評価の約半分は、諸税と輸送経費です。
評価の低い木を切り出せば利益がこの経費に、食われてしまいます。
この見極めが伐採事業の正否を左右するのです。
故に、昔の商業伐採が森林荒廃を招いたとは、とても思えません。
では、一体何が森林荒廃を招いたのでしょうか?
開発伐採という名で呼ばれている皆伐事業です。
スハルト政権崩壊後の民主化により、中央政府よりの方針を無視した
やりたい放題の地方分権が行われております。
農園を開発すると言う名目で、地面に立っている木を伐って売ってもよい、
という枠が取れるのです。
この枠を得た業者は、商業伐採としての択抜を行った後で、
伐り残した木を処理するために、最も安上がりの方策として、森林に火を掛けるのです。
これをやれば、有用樹種も未利用樹種も、小径木も大径木も、
味噌も糞も、みな一緒に消えてしまいます。
その跡地に農園を開けばまだしも、伐るだけ伐って、
売るだけ売って、儲けるだけ儲けた後で
息の長い、農園事業を嫌って手を上げた業者もあり、
各地に放置されて草だけとなってしまった土地が多く見られます。
誰かが儲ければ、我も我も、やらなきゃ損、と言うことで、参画してきます。
枠の発給も賄賂で行われるようになります。

行政の査察も裏金で書類審査だけとなってしまいます。
取り締まる人も、取り締まられる人も、同じ種類の人間だったりします。
捕まえてみれば警察、捕まえてみれば国軍、捕まえてみれば役人、
このようにして木が出てくるのです。
今まではこのような木が密輸出されて遠く中国やマレーシアに流れておりました。
インドネシアの木が中国へ密輸出されて加工され、より安く日本市場に流れ込んだが為にインドネシアよりの製品が日本市場で中国経由製に相場で打たれた、
と言った笑い話が沢山あります。
正規伐採枠を絞られているので、用材不足となっているインドネシア国内木材業界も
生きんが為には違法伐採材を使わざるを得ません。
知ってか知らずかは別として、盗伐材を使ってきたからこそ、
このような厳しい伐採規制の基でも操業を維持して来れたのです。
そうでなければインドネシアの木材業界は崩壊しております。
これが森林破壊の原因であり、行き過ぎた民主主義の結果なのです。
しかし、これを本気で取り締まれば、今まで甘い汁を吸ってきた
地方分権派が黙っておりません。
直ぐに、地方自治権の侵害だの、中央政府の介入だのと騒ぎ立て、
独立運動に発展しかねません。
そうなればインドネシア共和国の崩壊につながります。
東ティモールの独立を認めたがために、北スマトラのアチェー独立運動を
取り締まれなくなり、ひいてはマルク独立戦線や
パプア独立運動に火がつきそうになっている現状なのですから。
『盗伐は悪いことだから取り締まれ』、と言う簡単な問題ではなく、
取り締まりが独立運動を招く、と言っても過言ではないぐらい
国家の根幹を揺るがす難しい問題とつながってくるのです。
とは、云うもののインドネシア政府もようやく重い腰をあげて
取り締まりを強化し始めました。
スシロバンバンユドヨノ政権は国策の柱として
違法伐採取り締まり強化を挙げて本気を示しました。
でも、時期が悪すぎました。
ただでさへ原木の出難い雨期の今、違法伐採の取り締まりを強化して
伐採キャンプへの査察や町の加工工場への査察を行い、
輸送途中のトラックやバージ、船にまで取り締まりが及んでおります
ジャンビでも違法材を運んでいたトラックが捕まり、
警察署の前庭は、差し押さえたトラックで溢れております。
セレベスでは植林丸太を積んだバージが検察に引っかかり、
なんや、かやの言いがかりをつけられて
折角の丸太が使えない、状況に陥っているのを目にしました。

この結果・・・
インドネシア一番の木材産地、サマリンダ、マハカム河流域でさへも
木材の筏、バージ曳航があまり見られません。
活発に動き回っているのは石油不足で儲けている石炭バージばかりです。
黒いバージと黒いキャンプばかりのマハカム河となってしまいました。
お陰で原木在庫は3万立方を切り、2万5千立方を切り、・・・
経ることはあっても増えることは絶望の在庫状況となっております。
皆、数週間から数日の在庫状況でどう乗り切ってゆくのでしょうか?
事情通に聞きましたところ、かつて30近くの合板工場が軒を連ねていた
マハカム河流域で、稼働できる工場は10工場に満たない状況、
稼働率が6割を超える工場は数工場しかないそうです。
いよいよ『インドネシアに木がない』、と言う小職の主張が現実味を帯びて参りました。
杉の出番も間近ではないでしょうか?
後先を考えず日本へ輸出したが為に木のなくなってしまった可哀想な
東南アジア諸国と中国に、日本の杉をプレゼントして喜んで貰いましょう。
汚職の現況となるようなODAよりはよほどマシだと思います。
(汚職したければ杉丸太を盗んでみれば・・・)
同時に日本の杉花粉症もなくなりますし!!!
名付けて『緑のODA』・・・・木材屋の白昼夢でしょうか?