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インドネシア通信 

『ENNNICHI-SAI』…の巻き

 

日本の夏は盆踊りも花火大会も終り、残暑に耐えるだけの季節と

なりました。

 

夏の意識もない常夏の大都会ジャカルタで、『ENNNICHI-SAI』

なるお祭りが初めて催されました。

 

場所はかの有名な『ブロックM』、ジャカルタ唯一の日本租界。

日本人駐在員の社交と憩いの場です。

 

日本人有志と日本レストランやカラオケバーの共催による(と思われる)

お祭りです。(ENNNICHIとは縁日の意味)

 

日本の祭りを再現する事によインドネシアの人々に日本の文化を

身近に感じ取ってもらおうという趣旨(と思われる)のお祭りでした。

 

ブロックMの街に珍しく昼間の賑わいが現れました。

狭い域内に提灯や御神輿が飾られ多くの屋台が出ました。

 

そこへ大勢のインドネシア人が家族連れや恋人同士で訪れました。

日本の祭りと味を堪能したようです。

 

ブロックMは暗くおどろおどろした所だとジャカルタっ子に思われておりました。

合板メーカーの可愛い販売担当者をブロックMでの食事に誘っても

軽蔑の目で睨まれるだけです。

ブロックMは何とインドネシアの平均給与が一晩で吹っ飛ぶ場所。

『一体何をしているのか』と、まるで伏魔殿のごとく思われても仕方ありません。

 

しかし、来てみれば何のことはない、ごく普通のジャカルタ市街でしたでしょう。

これで疑惑は晴れました。

『光り輝くブロックM』、に幸あれ!

 

しかし…、

世の中、光だけでは成り立っているわけでないのです。

脚光を浴びるヒーローを際立たせるのは数え切れない顔なき背景です。

光の中で光は目立ちません。

陰の中でこそ光は輝くのです。

 

本当のブロックMを知りたければ隣接するロザリーホテルの、『とある部屋』へ

お越しなさい。机の引き出しに真のブロックMを物語る落書きがあるのです。 

 

         『初老の恋の終わり方』…

 

実に想像をかきたてる落書きです。

これを書いたおっさんは、この部屋で心の葛藤に苛まされたのでしょう。

『日本では誰にも相手にされない初老の俺を好いてくれる娘がここに居る。』

『でも、日本には家族が居る。』

『帰るべきか、帰らざるべきか…』

任期はドンドン迫ってくる。

『可愛い彼女を悲しませず、きれいに別れる手立てはないものだろうか? 』

 

 

あります!

中古自動車一台か、家を一軒借りてやればいいのです。

彼女は貴方一人のものではないのです。

貴方が来ない日には、貴方のような人が来ているのです。

貴方が帰国された日の夜から、別のおじさんと歌うのです。

ブロックMは、淡く儚い一夜の夢を酔いに乗せて見せてくれる劇場なのです。

可愛い彼女はそこの女優さんなのです。

夢を見させてもらったら御代を払えばよいのです。

誰も悲しみません。

悲しそうな風情も女優ならではのものです。

これがブロックMなのです。

欲望と嫉妬にまみれたカルマ(業)の街…、それがブロックMなのです。

 

『惚れて嬉しく、やがて寂しきピエロかな…』

 

果たしてこのおっさんは、どんな別れの修羅を演じたのでしょう…(か?)

 

 

追伸)

早朝、冷気の中に秋を感じます。秋は祭りの季節です。

常夏の大都会ジャカルタでも『MATSURI』はあります。

ブロックM劇場も役者を替えながら続いて行くのです。