インドネシア通信『インドネシアへの恩返し』…の巻 神谷典明
我々エコ展21と云うの名の同業者交流会は2年ごとに催される国際木工機械展にて
植林木を使った木製品の現況を実物をもって展示し続けてきました。
その歴史は2003年の第36回木工機械展にまで遡ります。この時名古屋大学
奥山教授(当時)の御尽力で併設展示を許され『世界の人工林木材を使いこなす』
のテーマの元に中部県内の木材会社6社が展示をしたのが始まりです。
最初は『機械展なのに何故木材を出しているんだ?!』との批判を受け、商談は厳禁、
名刺も出すなとのキツイ足かせをはめられて心が折れそうでした。
それでも折角奥山先生から戴いた機会ですので、『如何にエコと云う言葉を世の中に
知らしめるか』、世の中の常識である木を伐る事は悪い事という定説に反抗して
『如何に木を伐る事がエコなのか!』を訴える展示を2年ごとに続けて参りました。
それから苦節15年、参加者も替り奥山教授もお亡くなりになられましたら、幸い後任の
山本教授にその指導を引き継いでもらって展示を続け、2017年にはとうとう木材の
展示会【ウッドワンダーランド】が発足しました。参加8回、16年目の事でした。
エコと云う言葉も世の中に定着し、エコ展21の使命は終わったと座長である小職は
判断し、メンバーに『我々は使命を果たしたので2019年は卒業しよう』と提案を
しました。賛同が得られると思って自信を持っておりましたら、メンバーの結論は
『否』。『ここまで頑張って来たのだから頑張り続けよう』というコメントでした。
それが今年のウッドワンダーランド出展となって実現したのです。
早速ジャカルタより10kgのトラジャコーヒー豆を持って帰国したのが11月2日。
その足でポートメッセ名古屋へ行って出展の飾りつけを行い、休む間もなく3日からの
展示会に立ち会いました。大勢の人がトラジャコーヒーを喜んで試飲してくれました。
展示品のパーム幹に『これは木?』と訊いてくれた人も多かったですし、幼子や親御さんが野村隆也製木製アート(玩具)に興味を示してくれました。
朝早く家を出て夜帰る日々が4日間も続きインドネシア出張に続いてでしたので大変
疲れましたが、心地よい満足感が広がりました。
展示会最中の台風18号、そして直後の19号は大変な被害を東日本にもたらしました。
観測史上初という言葉がTV画面上を行き交い、ゴルフ練習場ネット倒壊や長野新幹線
水没等、刺激的な写真も沢山見せられました。
そして皆が口にする言葉『台風が大型化している』、これは身をもって感ずる危惧です。
伊勢湾台風を幼稚園の頃伊勢湾台風で腰まで来た水の中を非難した経験のある身としては
『それは違うよ! これからは大型と言っている今の台風が普通になるよ』と声を大に
して叫びたいです。『地球温暖化により海面の温度が上昇し温帯が亜熱帯化する』
そう思っていた時にTV番組で同じ主張を見て意を強くしました。
温暖化の害が叫ばれているのに経済効率を追いかけんが為にこれを無視し続けた経済界と
それに支えられた現政権の無策が招いた人災であると思います。
そして、この問題を根本的に解決する一つの方策が
1.『年数が経って二酸化炭素吸収力が落ちて来た成木を伐ること』
2.『伐った木を加工して世間に提供し地上に二酸化炭素を固定する事』
3.『伐採・加工する木材屋が儲けて、その利益で再植林を促す事』
4.『二酸化炭素を再植林した若木に吸わせる事』
5.『二酸化炭素を吸って大きく育った木を伐って使う事』
二酸化炭素が吸われて減り、吸った木を材料として利用でき、再度二酸化炭素を飯として木が育ちます。このサイクルを地球上全ての地で確立すれば、排出された二酸化炭素も
減って来ましょう。
肝要なのは世間一般の人が『木を伐るのは悪い事ではなく、環境に良い事なのだ』
『伐った木は使わなければ意味が無いので、他の材料が有ろうと住環境を守ると言う
意識を持って敢えて他の材料でなく木を選択する』という意識を持てば良いのです。
その結果木材業者は儲かり、効率良く多くの木を加工せんが為により優秀な木工機械に
買い替えるので木工機業界も儲かる、そして儲けた資金を使って儲けの源泉である
材料(木)の安定確保を図る為に木を植えます。儲かれば補助金なぞ無くても営利企業はやるのです。
儲けのサイクルを創り出す事が大切なのです。それを訴えたいが為の16年に及ぶ出展なのです。
『木は腐る、木は虫に食われる、木は燃える。だからアルミの方が良いのだ』
という意見もかつては有りましたが、そのアルミが製錬時にどれだけ電力を食う非エコな材料であるかは賢明な消費者にはもうお分かりの事だと思います。
今では防腐、防虫、難燃処理技術も発展し、木の欠点は消えつつあります。
欠点が消えるに従い『二酸化炭素を吸って自己増殖する生物材料』としてのメリットが
大きくクローズアップされてきます。
この論は木だけに当てはまるのではなく、竹でも椰子でも草でも藻でも同じことが言えます。使われず捨てられている実をつけなくなった20年以上経つパーム椰子幹の使い込み方法を今回の展示会では提案しました。どうしたらこの幹が木の様に使えるのか?
マレーシアとインドネシア合わせて毎年6000万m3も出て来る幹を刻んで土に埋めて
良いものですか?!土中で腐って土壌を酸性化し尚且つそれまで吸った二酸化炭素を全て
排出してしまいます。(でも実際には埋めてます。小職は自分の目でこの事実を見ました)
インドネシアでの年間木材伐採許可数量は天然木で600万m3、植林木で3200万、合わせても4000万m3に満たないです。これに対してパーム椰子植え替えに際して
出て来る幹の量は年間3000万m3程です。埋めたら膨大な公害源になりますし、これを工業材料として使わない手はないでしょう。膨大な資源が使われずにいるのです。
この様な事を今回のウッドワンダーランド(エコ展21)では御来場の方に訴えました。
これぞエコ展21の意義だとの確信を持ってトラジャコーヒーを飲みながら訴えました。
『先ずは出来る事からやりましょう!』と。
そこで本題です。
木機展でさへも既に16年、インドネシアに絡んでからなら今年で40年の年月が流れました。その間大勢のインドネシア庶民から協力を得て生き抜いて参ることが出来ました。
生活も仕事も遊びも一人では出来ませんでした。
還暦を迎えた2013年、この恩返しをしようと思い立ちました。
具体的に何をして良いかは分かりませんでしたので、思い付くままに生活困窮者への援助を始めました。
考えるより実行だと思ったからです。
一番簡単なのは目の前に現れて来る生活困窮者を金で救う事だったからです。
言葉は不適切ですが、かつて金で女を買っていた小職が今度は金で人を救うのです。
同じ金ですが、その重みは随分違うぞとの自負を持って決心しました。
各地に散らばっている友人に『生活が苦しい人居れば連絡せよ』と指示を飛ばしました。
返事は全て『私が困っている』でした。こんな冗談は無視して待っておりますと
『大学に行きたいがお父さんは金が無いので諦める』という娘が我が心の故郷タラカン島に現れました。『これだ!』毎月50万ルピアの学費を援助することにしました。
友人からは『足長おじさん』と揶揄されましたが卒業するまでの4年間お金を送り続けました。その娘は無事タラカンにあるボルネオ大学を卒業し国立商業銀行に就職しました。職場で知り合った男性と結婚し、その結婚式にも招かれました。今はお腹に3か月の子供を宿してバリックパパンに住んでおります。
これで自信を持ち2016年から本格的に援助を拡大しました。
きっかけ親の貧乏で小学校に通えなかったアユちゃんです。当時7歳、インドネシアでは中学校までは義務教育ですが、制服や教材は親の負担です。
これ等を買う金の無い家庭の子は恥ずかしくて学校へ行けません。まさにそういう子がいるので援助してくれとバンドン在住の友人より頼まれ、毎月50万ルピアを送り始めました。今は2019年、当時7歳だったアユちゃんも今は10歳です。
送られてくる写真を見ると実に可愛いらしい子に育ちました。故にこの援助を『アユ奨学金』と名付けて対象を広げました。今では中部ジャワのソロ市に3人。スマトラのジャンビに1人とアユちゃんを含めて5人に増えました。
『騙されている』と云う人もいます。でも、騙されてても良いではないですか…
所詮自分の『人助けをしている』と云う自己満足から発したことなんですから。それよりも自分には『人を助ける力が有るんだ』という誇らしい気持ちが大切なのです。
50万ルピアは日本円で(50万/@130=3800円)
日本でもブロックMでも軽く一杯呑む金です。
これが5人、5回呑みに行くのを我慢すれば捻出できる金です。『その金で学校へ行ける子が増えるのだから良い事ではないか!』と言って女房殿を納得させているのです。(が、実際に呑みに行くのを抑えのは不可能です。)
❶出来る事からやる、➋騙されていても良い、❸自己満足が大切。…この3原則です。
こんな事をしていたら、何故か頼まれ事が増えて来ました。
曰く、『ゴミ処理プラントをインドネシアに売り込んでくれ』
これは亜臨界水というものを使ってゴミを加水分解して低分子な有機物に換える技術だそうです。そして残渣である低分子有機物残渣が肥料にもなると云う一石2鳥な夢のプラントなのです。
『ほんまかいな』と疑りつつも友人を通してインドネシアの所轄省庁へ
紹介したところ、興味を持たれてしまったのです。
それは河川ゴミの処理です。
インドネシアの人は川をゴミ箱だと思っています。
日本人の『水に流す』という感性に近いです。
川に流しさへすれば流れて消えるとでも思っているのでしょう。
しかし、当然消えません。それが溜りに溜まって川面を埋めるのです。
その実態たるや、現実に川を見に行って驚かされました。一面のゴミです。
このゴミが水門や用水に詰まって洪水を引き起こすのです。
ジャカルタは最近大した雨でもないのに洪水が起きますが、その原因の一つなのです。
『川はゴミ箱じゃない』と啓蒙することもさることながら、物理的に
既に有るゴミを取り除かなければ問題は解決しません。
この為には。①乾燥不要、②分別不要、③燃やさない、と三つのメリットを
持った日本製『亜臨界システム』は最適だと思います。
これから展示会に出展して売り込みます。
曰く、『野菜・果樹用サプリメントをインドネシアに売り込んでくれ』
これは日本人が開発してブラジルで作っていると言う一風変わった経歴の
成長促進剤『オルガミン』です。勿論農薬ではありませので害虫を殺したりする毒性は無し。
アミノ酸主体のサプリメントで、水で希釈して葉っぱに撒くだけで成長が早まり収穫量も増えると云う製品です。虫や病気に対する耐性も付く夢の如き製品です。
自分も半信半疑な心のまま友人に頼んで比較試験をしてもらいました。
その友人から驚きの声が挙がったのです。
確かに早く成長するし、実が大きく成り収穫個数も増えました。全体で3割ほどの収益アップです。
このサプリメントを葉に撒くだけで3割の収益アップです。『まるで夢見てる様だ!』との声です。
試験をしてくれた友人達から先ず『使いたい!!!』という声が挙がりました。
これから輸入許可、国内販売許可を取得して行かねばなりませんが、これだけ待望の声が挙がる製品を国も放っては置けないでしょう。これで農民がどれだけ潤う事か!
と、一般的には考えますが小職はその先を見てます。
インドネシアはプランテーション(単一栽培)の国です。この担い手は農民ではなく営利企業です。
だから農園を拓く際コストの掛かるジャングル伐採を嫌い、火を放って焼き払うのです。これで煙害を招いているのです。こうまでして企業が拓いた広大な農園の代表格がパーム農園なのです。ゴム農園、コーヒー農園、カカオ農園、…枚挙にいとまがありません。
農園を拓きここに精製工場を建てると付近の農民が同じ作物を作るのです。その理由は精製工場に売れるから。
単純にパーム椰子を植えたりゴムの木を植えたりしても実や樹液が換金できなければ意味を成しません。
パームの実やゴムの樹液が喰えるわけではないからです。受け入れ工場が出来て初めて換金できるのです。
故にこれ等プランテーションは企業が先に開拓に着手するのです。それに農民が付いて行くのです。
こんな事も知らず『焼き畑をしなければ生きて行けない人達が居る』と云う企業広告を信じて『焼き畑は仕方が無いのだ』と云う人が未だ展示会来場者にも居ました。その方には優しく『本質を見なければ目が曇るよ』と言ってあげました。全ては企業活動で起こっている事なのです。企業活動はボランティア活動ではありません。全て金儲けが全ての活動です。『儲けて何ぼ』なのです。こんな相手は簡単に説得できます。
儲けられることを実証して見せれば良いのですから。
故にサプリメントであるオルガミンも最終対象は企業なのです。外資系穀物メジャーであり財閥系農園です。彼等の内、1社でも採用してくれれば膨大な需要に繋がります。その理由は、他社に収益力で後れを取りたくない企業はこぞって採用しましょう。ここまで来れば時の勢いに任せば良いのです。
生物多様性を犠牲にしてまで拓いた単一栽培農園ですので、拓いたからには収益を上げて貰いたいです。そうでなければ広大なジャングルが無駄になってしまいます。拓いたからには成功して儲けて貰いたいです。
そのカギがこのサプリメント『オルガミン』なのです。
自分の仕事でも『出来る事からやる』を実践した例が有ります。それが樹皮切りナイフの改造です。
ゴムは、木ではなく樹皮から樹液を出すのです。
この為、立っている木の皮に毎日刻みを入れます。
この刻みに沿って樹液が出ますのでここにカップを取り付け、毎日中身を集めると共に更なる刻みを入れるのです。
そしてこのナイフが問題なのです。
日本で漆を採取するのに使うナイフと同じ形状のものですが、力の加減で刃が木部へ食い込むのです。
そしてここから菌が入り木を痛めるのです。
ゴムの木を加工した事のある方なら御存知ですが、『タリアイル』を称する入り皮の様な欠点が板や単板に発生しその利用を阻むのです。製材ではトリミングで除去します。カツラ剥きする合板では致命傷です。
理由は一番太く通直な胸高部位に樹液採集が集中しますので当然この部位にこの欠点タリアイルが出るからです。一番使いたい部位に限ってタリアイルが出るのです。実に憎らしい欠点です。
昔は樹液の出なくなって植え替え時に伐ったゴムの老木を煉瓦を焼く燃料にしていたので、この欠点も問題視されませんでした。
が、今は違います。これを材料として使いますので大きな障害となって加工業者の前に立ちはだかるのです。
小職はパートナーのアリス氏に向かって『樹液を採らないゴム農園を拓こう』と提案した事が有ります。
『神谷、樹液を採らないのならゴム農園を拓く意味がないじゃないか!』と一笑に付されてしまいました。
そこで思い付いたのです。『出来る事からやろう』
①『タリアイルが発生する原因は何だろう?』
②『それはナイフが木部へ食い込むからだ』
③『では、木部へ食い込まないようにすれば良い』
④『ナイフにストッパーを付けよう』
と言う事でナイフの腹に溶接で小さな突起を付けました。突起の位置を刃の先端から樹皮の厚さまでに設定し、樹皮の厚さ以上に刃が食い込まない様にしたのです。これで木部を傷つける事は無くなります。
これでタリアイルは出なくなります。
胸高の一番太く通直な部位が無欠点で使えます。
ゴム原木では取得無理と言われていたフェース単板が採れる様になります。
画期的な発明です。
ゴムの木加工業者にとっては夢の様な事です。
自画自賛です。
でも誰も採用してくれません。
あまりにも簡単な改良だからでしょうか?
コロンブスの卵です。
が、卵のままで終わりそうです。
このナイフを採用してくれたゴム農園が35年経って、植え替え時に出て来る老木を買った合板業者が
『あれ!なんでタリアイルが出ないんだ?』
となるのでしょうが、その時小職はもうこの世には居りません。
あの世とやらで農民が驚く様を眺めましょうか!!!