インドネシア通信 『本音のコメント』...の巻 神谷典明
これは昔の話です。
インドネシアの木材業界では日本製機械の導入が一般的でした。
『値段は高いけど高いだけの価値は有る』と皆言っておりました。
それがいつのまにか変わってしまいました。
日本製以外の機材が目に付くのです。
かつては日本製の独壇場だったのにどうして?
この間に一体何が有ったのでしょうか?
小職はコンサルタントと称しておりますが、その実態は
インドネシアでの木材工場に於いての各種手助けを業務としているのです。
各種の中には日本への販売を含みますのでエージェントとかブローカー業務でもありますが、販売だけではなく必要な技術を供与したり一緒に生産管理や品質管理、
納期管理をしたり、果ては一緒に製品開発を行ったりもします。
『一緒に』という言葉は従業員の如く工場で一緒に働くことを意味します。
ただ買うだけでなく生産の大変さも味わっております。
まるで現場監督の様なものです。
故にコンサルタントと敢えて称しているのです。
工場長と一緒に『ああでもない、こうでもない』と言いながら仕事をして来ました。
そんな小職が痛切に感じる事の一つにアフターサービスがあります。
機械の調子が悪い時、もしくは壊れた時、生産ラインを止めない様にするにはどうしたら良いか?
重要な機械であればある程この問題は大きくのし掛かって参ります。
生産を止める訳には参りません。
かと言って機械の調子は悪い、無理に動かせば不良品が出てきますし、最悪は機械が壊れてしまいます。
サアどうするか?
こんな問題に直面した事が多々ありました。
重要な機械程信頼のおける日本製を使います。
そしてこれが壊れるのです。
ラインを止めてもダメ、動かしてもダメ。
一体どうすれば良いのでしょうか?
重要でない機械は台湾製だったり欧州製だったりします。
この場合シンガポール辺りから代理店のスタッフ(主に華人)が飛んで来ます。機械を調べて必要なパーツを持ち込んで直してくれます。
壊れてなくとも定期的に機械の様子を見に来てくれる会社もあります。
調子が悪ければ代理店に連絡して至急の善処を依頼すれば済むのです。
これに比して日本製はどうでしょう?
日本の技術者はなかなか来てくれません。
順番が有るのか? 技術者が少ないのか? 日本から来る所為か?…ともかく来て貰うのに時間が掛かるのです。
その間工場はどうしたら良いのでしょう?
ただ待っているだけなら簡単なのですが、そうは問屋が卸してくれません。
納期の迫っているアイテムが有ります。
納期も値段や品質と同じように大事な信用なのです。
月間生産目標が立てられており、工場長はオーナーから目標に責任を負わされております。
あれやこれやで待ってはおれないのです。
日本の機械メーカーへ連絡を取ります。
なかなか来て貰えません。順番が有ります。
来て貰えてもすぐ直るとは限りません。
必要なパーツを調べて一旦御帰国と相成ります。
また待ちます。一体いつになったら直るのか!
待っておれないので工務に命令して何とか使える様にさせます。
それを使いながら日本からの修理を待ちます。
ようやく技術者が来ました。そして機械を見て一言。
『何で勝手な修理をするの?』
『これじゃ壊している様なものだよ!!』
怒りが湧きます。
『貴方が直ぐ対処してくれないのでこうなったんだ!』『何を偉そうに!!』
(気分的には貴方ではなく貴様と言いたい!!!)
これは実際に小職が体験した話です。
結果オーナーはこう思います。
『モノは悪いけど修理がし易い台湾製にしよう』
『直ぐ代理店が飛んできてくれる欧州製にしよう』
機械は決して値段だけではないのです。
アフターサービスの質も問題なのです。
どうして代理店を置かれないのでしょうか?
どうして日本と同じように壊れたら直ぐ修理に来れる体制を創ってくれないのでしょうか?
どうして客に『壊れた機材を抱えながら待つ苦痛』を味あわせるのでしょうか?
『日本製は良いよ、値段は高いがそれだけのことは有る。
値段が2倍しても2倍長持ちするから同じだよ』
こう言って日本製機械を選んでくれた工場がインドネシアには沢山あったのです。
そのどれもこれもが、ただ安いから中国製や台湾製に流れたのではありません。
アフターサービスでの対応も機材選定に対する重要な要素なのです。
それが証拠に、小職の友人がジャカルタに日本人技術駐在員を置いて日本製機械を売った事が有りました。
日本と同じように日本人技術者が定期的に工場訪問しては自分が売った機械を見て廻りました。
壊れそうな機械は事前にパーツを取り寄せて直しました。勿論壊れたらジャカルタ事務所への電話一本で直しに来てくれました。
この安心感たるや、工場を持つ身にとっては何物にも代え難いものでした。
その結果多くの工場が友人の会社経由で機械を買いました。
これは実際に小職が見た話です。
(その後友人はより発展の見込める重要な異業種に転身してしまいました。)
故に日本の機械メーカーさんもインドネシアに駐在事務所や代理店を設けてアフターサービスに力を入れられるべきと痛切に思います。
『売れたら設けるよ』と言われるかも知れませんが、
『売る為に設ける』のです。
小職が常日頃感じている日本製機械に対するネックを正直に申し上げました。
2003年から足掛け17年間に亘り木工機械展の隅を借りて『エコ展21』と称する植林木製品を展示させてもらった御礼に本音を漏らしました。
今年の展示会は木材展示専門の『ウッドワンダーランド』二回目を併設し合計25000人弱の方々に御来場いただきました。
実行委員長井本氏から聞いた事が有ります。
『木工機械が売れる為には木材業界が儲からねばダメ、木材の使用を喚起する為にウッドワンダーランドをやろう』
井本委員長の需要喚起に対する情熱に感動しました。
彼の使命感の一端を担えて嬉しかったです。誇らしかったです。
2019年の終り、そして2020年の初めに際して
井本実行委員長の夢と使命感を共有させてもらった
有難さを噛みしめ乍ら、彼の御冥福を深く深くお祈り
申し上げます。