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インドネシア通信『インドネシアのコロナ騒動』…の巻   神谷典明

コロナウイルスが世界的に猛威を振るっております。
東南アジアの大国インドネシアでは今まで感染者が見つかっておりませんでしたが
(と言われておりましたが)、ついに3月2日ジャカルタで母娘の感染者が見つかって
しまいました。
それからは堰を切ったようにあちこちで感染発覚報告が入り始めました。
可哀想にダンス好きな母娘はネットに顔が出てしまい2億7000万人の衆目を集めてし
まいました。
同時に彼女達がジャカルタ市内のダンス会で接触したマレーシア在住邦人がマレーシ
アへ帰ってから感染が見つかったという事実だけで、いかにも感染源が日本人
であるかのような報道を保険大臣が繰り返し速報で伝えました所為で日本バッシング
も始まっております。
今まで親日家だったインドネシアの人々が我々に対し嫌悪感を表すがごとき態度に出
るのを見るのは気分の良いものではありません。
まして保健相のいう日本人からの感染という話も事実確認された話ではないので尚更
です。
この様な事をインドネシア語では『kacang lupakan kulit豆は殻を忘れた』と表現し
ます。
インドネシアの独立を陰で支えてくれた日本人。
一番多くODAを供与し続けて発展を助けてくれた日本人。
直近ではジャカルタ新都市交通機関MRTを作ったのも日本です。
それなのに日本バッシングなんて、まさに『恩知らず』

少しでもインドネシアを知っている人々ならこれだけ世界に広がっているコロナウイ
ルスがインドネシアで見つかっていない事に違和感を感じていたはずです。
マレーシアやシンガポールで見つかっているのに何故?
『検査しなければ見つからないよ。』
『感染者は居るに決まってるよ。ただ分からないだけ』
と思っておりました。
最近のコロナ感染急増の報に接して『やっぱり、無い訳が無いよ。インドネシアだも
の』と妙な納得をしております。
急増ではなく元々居たコロナ感染者を見つける検査がやっと本格的に始まっただけだ
と思います。
やってみたらゾクゾクコロナ感染者が見つかり当局が驚き慌てているだけだと思いま
す。
熱や咳など風邪に似た症状を呈する病は南国インドネシアには沢山あります。
風邪、デング熱、チフス(と称する症状)等々、調べて見ればこの中からコロナ感染
者が紛れていたとしても不思議は有りません。

コロナ感染者が出た中部ジャワの州知事からお触れが出ました。
『当面、外国人の工場立ち入りは禁止すべし』
この為に弁当箱工場を定期訪問しようと汽車の切符を用意していた小職は訪問をキャ
ンセルせざるを得なくなりました。
スマトラ島ジャンビの工場からも連絡が来ました。
『外国人バイヤーの工場立ち入りを当面禁止します。』
これで航空券がパーになりました。
ジャカルタ本社事務所への訪問さへも遠慮してくれと言って来た会社も有りました。
これでは仕事になりません。
折角インドネシアメーカーの助けになろうと自費でジャカルタまでコンサルタントが
来ているのに。

事務所へ入る前に熱を測られます。
久し振りに会っても握手はしてくれません。
まるでコロナ感染者扱い。
『危ないものを見るような目で俺を見るのは止めよ!』

コロナが暖かくなれば収束するという安易な考えも消えたでしょう。
何せ常夏の国インドネシアで感染者が増え続けているのですから。
インドネシアでは『コロナに打ち勝とう』キャンペーンを打っております。
ビルの出入り口には熱を測る人が居り入る人の熱を測っております。
小職も測らされました。35.6度と表示されました。
『オーケーミスター』
俺の体温はそんなに低くないぞ、平熱は36.5度なのに。大丈夫なのかそんな程度の機
材で?
因みに訊いてみました。『何度だったらダメなのか?』
『38度以上』…37.5度以上ではないのか?
消毒用アルコールが至る所に置いてあります。誰でも手を消毒出来ます。
こんなに厳重な体制を敷いている割にはマスク着用率が低いです。してない人が半分
ぐらい居ます。
統制が取れておりません。流石インドネシアです。

アメリカ在住のインドネシア人より嬉しいレターが送られてきました。カンサス聖ル
カ病院発行のレターです。
『コロナ予防にはウオッカを飲みなさい』
嬉しいですね。
良く考えればアルコールで手を消毒するのですからアルコール度数の高いウオッカで
腹中を消毒するのは理に適っておりましょう。
これでコロナ予防と称して酒が飲める。
小職にとっては何よりの朗報でした。

冗談はさておき、3月20日の午前0時に今まで外国人の入国に使われて来た観光客用
ノービザとビジネス用到着ビザ(VOA:インドネシア到着空港のイミグレ審査場前で
ビザを買って入るシステム)を廃止しました。
昔の如く各国のインドネシア大使館で訪問ビザを取得してから来るようにしました。
元々訪問ビザ取得には時間と経費が掛かるので簡素化するためにノービザと到着ビザ
を新設したのです。
昔に戻せば外国からの人の流入はほぼ止まります。
同じくジャカルタ特別州知事からも同日非常事態宣言が出されました。曰く、州内の
企業事務所での活動を行わない様に、映画館、カラオケ、スパ(マッサージ)などは
23日より営業を停止する事。まるで断食月です。
以上の如き規制を先ずは一カ月実施するそうです。
様子を見ながら延長もあり得るとの事です。

インドネシア政府が慌てて各種の対策を講じている目の先には5月のイスラム正月が
写っていると思います。
5月24-25日がイスラム正月です。そしてその1週間前からムディック(帰省)
という民族大移動が始まります。
この時期までにコロナウイルスが収束していないとパンデミックとなります。
多くのインドネシア人が日本のお盆と同じように故郷へ帰省します。そしてイスラム
正月の前に大家族が集まってお墓の掃除をしてから正月を迎えるのです。
これは一年で一番大事な行事です。
イスラム教徒が国民の9割を占める世界一のイスラム教国でこれを規制する事は難事
です。
帰省しなければウイルスをインドネシア全土にばら撒く事態となってしまいます。
いずれに転んでも大変な事態となりましょう。
日本政府がウイルスを抑え込んで東京五輪を迎えたいと一生懸命なのと同じぐらいイ
ンドネシア政府は無事にイスラム正月を迎えたいのです。
失敗すれば政権の求心力は一気に落ちるでしょう。
この様な思惑も絡んでインドネシアでの非常事態宣言は各州へ広がって行くでしょ
う。
そしてそれに伴って我々外国企業の活動も狭められてゆくでしょう。
4月にインドネシアへ渡ることは実質的に無理です。
5月に規制が緩んだとしても、断食とそれに伴う外国人をターゲットとした不法就労
名目での摘発と賄賂要求を嫌ってインドネシアに渡る人は少ないと思います。
つまり新規活動は6月からと心得る必要を認めます。

皆さんはいかがお考えですか?

2020/5/23受信分