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インドネシア通信 『壮大な挑戦』…の巻き

 

いつになったら改善できるのか、いつまで繰り返すのか、…この愚行(?)

 

またしても犠牲者が出てしまいました。

NZ地震の映像を見ているとジョグジャ地震やパダン地震に重なります。

全く同じ被災地の光景…、レンガが散乱する瓦礫の中で救助を待つ人々。

今回は日本から留学した将来有望な多くの若者さへも犠牲になりました。

どうしてこうなってしまうのでしょう…?

 

『石の文化と木の文化』

名古屋大学農学部林産学科に所属した学生時代、若かりし頃フランスへ

留学したことのある当時の助教授からこんな話を聞いたことがあります。

欧州の建造物は石積みである。

石の冷たさが肌に障るゆえ、せめて体の触れる部分だけは温い木を使おうと

窓枠や階段などの造作部材に木を使い、日々木の有り難味を感じながら

暮らしている…。

日本は木の文化、構造にも造作にもふんだんに木を使っているが故に木の

有り難味を認識していないのだ。

石の文化ゆえに木の価値を認め、木の文化ゆえに木の価値に気付かぬ…。

面白い指摘であったと今でも覚えております。

 

地震の瓦礫を見るにつけこの石の文化を思い出します。

彼の地に木が無いわけではありません。

インドネシアもニュージーランドも日本に対する木材の輸出国です。

輸出できるほど木は有るのです。

それなのにどうして木の文化が育たなかったのでしょうか?

インドネシアはオランダ統治だったから?、NZはイギリス統治だったから?、

お互い統治国が石の文化だったのでレンガの家を建てるのでしょうか…?

 

でも、忘れてはいけません。

インドネシアもニュージーランドも日本と同じ火山国、地震国なのです。

アチェー大地震の時もジョグジャ地震の時もそして今回も、専門家は

被災地を訪れて言いました。

『レンガ積みは耐震性が全く無く地震で揺らされれば一気に崩壊する、

         そして瓦礫に埋まって多くの人々が死んだ。』、と。

 

毎度毎度大震災発生の度に現地へ派遣された専門家はレンガ積みの

脆さを指摘する。

しかし建築方法は依然として変わらない…。

この繰り返しです。

人間は学習をしない動物でしょうか?

 

インドネシアにおける建築に限って見れば学習した様子が見れません。

何回地震が起こってもどんなに大勢の人々が瓦礫に埋まって死んでも

レンガ積みの家を今日も建て続けているのです。

…実に不思議です。

 

インドネシアでの一般的建築方法を小職が見た限りにおいて説明します。

①コンクリートを流し込んで基礎を作る。

②その隅隅に細い鉄筋を入れてコンクリートを流し込み柱を作る。

③柱と柱の間に細い鉄筋をコンクリートで巻いた梁を渡す。

④柱と梁の間に素焼きのレンガをモルタルを付けながら積む。

⑤開口部(ドアや窓)はレンガを積まず空けておく。

⑥空けた開口部に既製品の硬木製ドア枠、窓枠をはめる。

⑦はめた枠とレンガの間の隙間をモルタルで埋める。

⑧積みあがったレンガ壁の両面からモルタルを塗る。

⑨モルタルの上にペンキで色を塗る。

これで出来上がりです。

 

レンガは赤土を焼いただけの物ですので脆く叩くと潰れます。

当然こんなレンガで造った壁は木槌で叩けば穴が開きます。

木の枠にはモルタルが付いておりますので柔な木は腐ってしまいます。

だから昔は水に強いチーク材を使いました。

チーク材が大幅に値上がって銘木となってしまった昨今では腐りにくいと

思われている(だけの?)カポール材、クルイン材、バンキライ材などの

硬い樹種が代替え材として使われております。

 

この様にして建てた家は外壁がモルタルで覆われておりますので

一見鉄筋コンクリート造りのごとく見えますが中身は『レンガ』です。

個人の家だけでなく結構大きなビルも同様な建て方で出来ております。

こんな建て方でよく建築基準法をパスできたものだな、と思います。

果たして適正に審査しているのか…?との疑問が沸きます。

 

以前ジャカルタのビル内で地震を感じたとき一瞬にして人が居なくなり

驚いたことがあります。皆ビルの外に逃げ出していたのです。

ビルの外に逃げるよりは先ず机の下、これだから地震に慣れていない人は

困る、とその時は思いました。

しかし、実はこれが正解だったことが今回のNZ地震で分かりました。

何せ一瞬にしてビル自体が崩壊するのですから…。

机の下に逃げ込んでも床と共に落下し瓦礫に埋まるだけでしょう。

 

地震国であるインドネシアやニュージーランドでどうしてこの様な建築方法が

許されているのでしょうか…(?)

どうして彼の地の国民はレンガを積み続けるのでしょうか?

そうして彼の地の国民は耐震木造住宅を採用しないのでしょうか?

 

インドネシア人は木の家をバラックと見做しているふしがあります。

  確かにジャカルタのバラックは産廃の組み合わせです。

インドネシア人は木の家を田舎者の家と見做しているふしがあります。

  確かにカリマンタンのダヤック族やセレベスのブギス族の家は木造です。

インドネシアの人は木が弱いものだと見做しているふしが有ります。

  モルタルをくっ付けて使うような使い方をすれば弱いに決まってます。

  木が弱いのではなく使い方が間違っているのです。

 

ふと気が付きました。

・木は腐る…レンガは腐らない…腐るものは弱い…木はレンガより弱い。

 この考えが地震の揺れにも適用されてしまったのではないだろうか?

・インドネシアの人々がレンガ積みや木造バラック以外の選択肢を知らない

 だけではないだろうか?

小職は33年間インドネシアを歩き回ってきましたが日本のような工業生産

木造住宅をインドネシアで見たことがありません。

 

木造であれば軸組み工法でもレンガ積みよりは揺れに強い、と思うのは

我々日本人の常識です。

耐震金物を組み合わせたりパネル工法であったりすれば尚更揺れに強く

なると日本人は知っております。 

一瞬で崩れた瓦礫に人が埋まるというリスクは木造ならば軽減できると

日本人なら誰しも思うところでしょう。

しかしインドネシアの人々が果たしてこの事を知っているのでしょうか?

石の文化圏の人々はレンガ積みの方が木造より強いと思っているのでは

ないでしょうか?

 

知らないことは罪ではありません。教えてあげればよいのです。

石の文化に木を持ち込み文化の壁を乗り越える。果たして可能でしょうか?

 

文化を隠れ蓑にして手をこまねいておれば地震の度に多くの犠牲者が出ます。

可能かどうかではなく挑戦すべきことなのです。

文化の壁を越える『壮大な挑戦』です。

 

木造住宅はバラックだけでなく豪邸も建てられる事を知らせたいです。

木でも人工的に強くすることが出来ます。

 樹脂を含浸した木材や熱処理したサーモウッド、防腐薬剤を注入した木材や

 圧縮して比重を高めた圧密木材、など多くの人工(処理済み耐候)木材が

 開発されていることを知らせたいです。

 

誰か日本の耐震木造住宅をインドネシアの人々に紹介してくれませんか?

 

誰か文化の壁を越える壮大な挑戦を一緒にしてくれませんか?