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インドネシア通信『夢』…の巻    神谷典明

 

シナ正月(春節)にはこんな夢を見たいです。

 

ジャワ島、スマトラ島の南側は火山帯です。

活火山が並んでおり頻繁に噴火しますし地震も多発します。

2004年スマトラ島の西端アチェ州で大きな地震があり、20万人を超える人命が失われました。

(その後日本でも東北震災が起きました。他人事ではなかったのです)

総人口2億7千万人の内の2億人強がジャワ島とスマトラ島に住んでおります。

その半分が南側に住んでいるとすれば1億人が地震帯の上で生きているのです。

 

そんな地震国インドネシアの家が何とレンガ積みなのです。

最近では軽量発泡コンクリート(ヘーベル)をレンガの替りに積んでいる現場も

見かけるようになりました、が、いずれ積み木のようにセメントを糊にして

積み上げただけですので、地震が起こると即崩れ、逃げる間も有りません。

日本人の友人がスマトラ島パダン市でインドネシア人の結婚式へ出席しようと

ホテルに泊まっている2009年9月30日に地震が起こりました。

2階か3階に泊まっていたそうですが、気が付いたら地上階で瓦礫の間に

埋まっていたそうです。幸い瓦礫に隙間があり、自力で這い出して助かったのですが、『本当に一瞬の出来事だった』と本人から聞きました。

地震被害者の殆どは瓦礫に埋まっての圧死だそうです。

 

地震が来ると判っていながら、どうして揺れに弱い煉瓦積みの家を建てるのでしょうか?

小職は昭和50年(1975年)大学3年時、学園祭で当時日本に紹介されたばかりの

2x4工法住宅を大学構内で建てるデモンストレーションをしたことが有ります。

当時は対米貿易が勝っており、怒ったアメリカが対抗策としてスーパー301条を

発効させたばかりでした。

木材業界でも2x4のディメンションランバーを買えとばかりに、これを使って

建てる2x4工法の住宅をも日本に押し付けて来たのです。

当時の謳い文句は『素人でも建てられる家』と言う事でした。

そこで実際に素人の学生がこれを建てて見せたのでした。

木方助教授(当時)の指導で名古屋木材笠木副社長(当時)より2x4部材を

提供して貰ってこれを建てて見せたのです。

中京地区では初めての試みでしたので中日新聞が取材に来てくれました。

(その後行ったディスカッションでは愛知県や名古屋市の土木部、各大学の工学部

などのプロが沢山参加してくれましたので、司会を務めた小職には手に余る催しとなってしまいました)

その席で2x4工法の耐震性が最大の特徴として挙げらました。

 

その後インドネシアで仕事をするようになった小職は、2011年以降3回に亘って日本の有名住宅メーカーの担当者をインドネシアへ招いて木造耐震住宅をインドネシアの住宅メーカーへ紹介してもらいました。

地震国日本で培われた耐震木造住宅であればきっとインドネシアにも歓迎されるで

あろうと思ったのですが、豈図らんや、インドネシアサイドからの反応は期待に反するものでした。

『木造はダメ。なぜなら、木は燃える、木は腐る、木は虫に喰われるから』

なるほど、煉瓦は燃えないし腐らないし虫も喰えません。

地震国で木材産出国でもあるインドネシアで木造住宅が無い理由がこれで解りました。

なぜこんな事に気が付かなかったのか…自分の迂闊さに呆れました。

これ以降、耐震木造住宅の普及という夢を封印しました。

 

 

それから10年。

天然木の安定供給はインドネシアに於いても違法伐採規制で難しくなりました。

そこで必要に応じて人間の手で増やせる植林木の市場開発に乗り出しました。

用材になる硬さ(比重0.5以上)で尚且つ豊富な毎木量を有する植林木として

ゴムの木に目を付けました。

ゴムの木は御存知の通り樹液から天然ゴムが採れます。

天然ゴムは合成ゴムに比べて弾性が強く、車のタイヤには不可欠の資材です。

空飛ぶ車が現実になるまで、社会は天然ゴムを必要とします。

言い換えればゴム農園はすたれないのです。

ましてゴムの木は樹液の出が悪くなった老木を植え替える際の廃木です。

ゴム樹液量の世界一はタイですが、ゴム農園面積の世界一はインドネシアです。

つまり世界一多量のゴムの木が毎年出て来ると言う事です。

この木を建材に使い込む事が出来れば材料に不安が無くなります。

木は細いのでまともな板が取れません。

集成材にすれば必要幅、必要長さが取れますが、歩留まりが極端に悪いです。

そこで考えたのがLVLです。

剥いてLVLにすればおが粉が出ませんので歩留まりが集成材の倍ぐらいまで行きます。それだけコストの懐が深くなります。

そして丸太を剥いた単板を使いますので細い丸太からでも4x8サイズが作れます。

 

但し、ゴムの木は糖分含有量が高いので、そのままでは腐れ易く虫に喰われます。

ゴム集成材でも防腐防虫剤の加圧注入が必須なのです。

しかし、注入薬剤は水に流れ出ますので屋内でしか使えません。

屋外でも使える耐水性を得る為に樹脂を細胞壁へ注入した含浸

(WPC:ウッドプラスチックコンポジット)処理したゴム単板を作りました。

これを練ってLVLと合板を作ります。

単板1枚1枚に樹脂含浸をしております。

これを練った製品は切ろうが、削ろうが、穴を開けようが含浸面が現れますので、

腐りません。

更にガラスの様な樹脂が木材の細胞壁に入っておりますので虫が喰えず、簡単には

燃えません。つまり難燃性も得られるのです。

これで水に強く・腐らず・虫に喰われなく・燃え難い・理想の木材が出来上がりました。

 

 

含浸LVLで枠を作り、含浸合板をハメます。こうして作ったパネルで箱を作り

家にすれば、モノコック構造が耐震性を確保出来ます。

『耐水で燃え難く、腐らず、虫に喰われない耐震木造住宅』が出来上がるのです。

これであれば南方の過酷な条件下でも使えるのではないでしょうか?

そして間違いなく煉瓦積みより揺れに強いです。

これをジャワ島やスマトラ島のインド洋側地域に建てれば、例え地震が来ても

瓦礫に埋まって圧死する人は居なくなります。逃げる時間が得られるからです。

『木は腐る、木は燃える、木は虫に喰われる』と言って自国に木が沢山有るのに

煉瓦を積んで家を建て、地震の度に埋まってしまうインドネシアの哀れな人達に、

耐震木造住宅の安全さを知って貰いたいのです。

 

これが1979年からインドネシアを舞台に原木、製材、集成材、LVLと時に依って

アイテムを換え乍ら44年間に亘って東カリマンタン島のタラカン、ヌヌカン、

ジャワ島のスラバヤ、ジャカルタ、プルヲコルト、セレベス島のウジュンパンダン、

パロポ、スマトラ島のパカンバル、ジャンビ、リアウ、ランポンと暴れて廻って来た

小職の最後に見る夢です。

 

『夢を夢として終わらせるか』たまたま『現実のものとするか』は、意思と運次第。

Mimpi jadi nyata…夢が現実となる様、老体に鞭打ってもうひと働きしましょう!